歴史と由来
 一人娘の酒蔵は東に筑波山、西に鬼怒川、関東平野の真中、茨城県石下町にあり八代続く古い蔵である。石下町は平将門を始めとする坂東武者の根城であり、詩人で作家でもある長塚 節(ながつか たかし)もこの地で生まれ、名作「土」の舞台ともなっている。この反骨の精神が一人娘にもうけつがれている。

 骨身を削る苦心のすえ、出来上がった珠玉のような名酒を、わが子にたとえ思わず「一人娘」と名づけたと伝えられている。第15回品評会に於て全国一位となり、杜氏と支配人は、黄綬褒章を受賞した。

 「一人娘」が日本一になったとき、山中酒造に平石小市郎という越後杜氏がいた。新潟の醸造試験所の酒造技能工第一期をトップで卒えてこの蔵に入り、43年勤め上げた名杜氏だった。いまはその平石杜氏に師事した田中徳代杜氏がすでに32年この蔵一筋 "一人娘" を育てるように酒を仕込む。

 山中直次郎蔵元は、「さわりなく、真水のごとき酒質」を実現するのを理想としている。その目標に向けて、田中杜氏は山田錦や高嶺錦などの好適米を磨きに磨いて高精白し、独特の仕込みで辛口のなめらかな美酒に育てる。

 日本一になった吟醸の「一人娘」、純米の「一人娘」など、いまでは外国人のファンクラブまでできた。それも「一人娘」が国境を越えて愛される境地に達しているからであろう。

中央公論より

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